指示を無視するミツバチたち
「ちょっと面白い海外視点」を紹介するコラム、Global Mindへようこそ。異なる文化やビジネス環境から、新しいヒントや競争力につながる普段と違うインサイトをお届けします。
「言うことを聞かない蜂」から学べること
僕が好きなイギリスの広告マン、Rory Sutherland。近所のパブの陽気なおじさんのように、人を何かと引き付ける語り口で、近年はマーケティングの解説映像の切り抜きが大人気です。
そんな親しみやすいキャラクターですが、世界的な広告会社、Ogilvyの副会長であり、長年広告と行動科学に携わり、数多くの企業を支援してきた広告界のレジェンドでもあります。
彼が語っている話の一つに、ミツバチのWaggle Dance――『ワッグルダンス』があります。
どうやらミツバチは餌場から巣へ戻ると、お尻をフリフリ、踊るような動きをして「どの方向へ、どれくらい飛べば蜜や花粉があるか」を仲間に伝えるらしい。多くの蜂はこの情報に従い、効率よく餌を集めに向かいます。
ところがSutherlandの話では、このワッグルダンスを無視して、全然関係のないところへ飛んでいってしまう蜂が約2割いるとか。
Sutherlandによると、これを観測した科学者たちは困惑したそうです。
「2,000万年以上の進化を遂げて、このような非効率を許すわけがない」
巣の収穫を最大化することが、最も効率的な進化だったはずだ。
ただ、よく考えればこれは極めて理にかなった行動です。
全員が従うと、巣が行き詰まる
ワッグルダンスを無視する蜂は、生物学では「Scout(探索蜂)」と呼ばれるらしい。そのまま日本語にすると、斥候みたいなものでしょうか。
短期的に見れば、全員がワッグルダンスに従う方が効率的です。
問題は、その餌場が枯れたり、草食動物の群れに食い荒らされたりしたときです。巣全体が一つの餌場に依存してしまったせいで、次の餌場が見つからず危機に陥る。
Trapped in a Local Maximum――日本では「局所最適の罠」と言われるらしいですね。
闇雲に探索する蜂の斥候たちの旅は、ほとんどが空振りです。一回の飛行だけで見ると、確かに非効率。
しかし、開花したばかりの新しい花畑を発見すれば、その情報は巣全体にとって、通常の採餌とは比べものにならない価値があります。
Sutherlandはこれを「Explore / Exploit Tradeoff」と呼んでます。収穫する価値があるものに対して、どこまでの非効率を許容すべきか。そのジレンマですね。
事業に置き換えた効率化の罠
Exploitという言葉には「有効活用」という意味がある一方で、「悪用」「搾取」のようなネガティブなニュアンスも含まれています。
事業が何か新しい開発や、独自性のある何かを手に入れたら、大体はそこに全力投球して、最大限の利益を取りにいこうとするでしょう。先行者利益を考えれば、当然です。
一方で、そればかりにフルベットしてしまうとどうか。
もちろん短期では商売を最大化するでしょうけど、多様化せずに続けていると、思わぬ社会的・経済的状況や突然の新技術の到来で、景色が一変することがあります。
最近の事象で例えると、コロナ禍の飲食店事業や、AIの台頭でさまざまなテック事業も景色が大きく変わったのではないでしょうか。
配送サービスの導入やAI商品へのピボットはもちろんですが、そもそも一点張りじゃなかった企業のほうが、よっぽど楽だったのではないかな。
Exploreはわかりやすく、探検、探求みたいな意味ですよね。
本業ではないものでも、いろいろ試していく。そこから次の発見や、次の発明、次の市場が生まれていく。
有名どころで言うと、オンライン書店から始まり、物流を極め、AWSでテックの必須インフラとなり、エンタメ配信まで手を広げたAmazonですかね。
もちろん、すべてが成功したわけじゃない。
Amazon Restaurantsの配送サービス撤退、リアル店舗事業のAmazon Goは上手く立ち上がらず。もっとも有名なのはFire Phoneで約1.7億ドルの関連費用を計上したのだとか。
ただ、新しい試みができたのも、本業という下地がありながら、「次の餌場を探す」ことが許される経営思想があったからなのではないかと僕は考えます。
マーケティングでもよく見る景色
僕が主に支援しているマーケティング領域でも、やっぱり成功した手法に頼りがちです。
そもそもPRは、何が当たるか分からないことも多い仕事です。だから色々試す。
ただ、上手くいった施策を見つけると、なかなか手放せない。
「○○セール!」で大成功。
「○○セール2025年度版!」で再現。
すがるように「2026年度夏版!冬版!」、少し間を挟んで「帰ってきた!復刻版○○セール!」
ずっと擦り続けていると、効果も薄れていくのは目に見えているのに、二匹目のどじょうを狙い続ける。
成功した餌場にも、賞味期限はあるのです。
変わり者になれという話ではない
「言うことを聞かず、変なことを始める人」。皆さんの周りにも、一人くらい思い当たる人がいるんじゃないでしょうか。実際にそう言う人がイノベーターだったりしますよね。
でもイノベーションを稀有な人の才能に任せてしまうのも結局博打。
「ちょっと擦り続けているな」と感じたときには、いや、できればその前から。
どれくらいのリソースを探索に使うのか。
すぐに成果が出ないことをどこまで許容するのか。
いつもとは異なる評価軸を、組織としてコミットできるか。
シオンでも大事にしている「変化と進化」。
100%従順な働き蜂でいるより、時にはワッグルダンスを無視して、新しいことを発見するチャレンジも必要かもしれません。
